左側:代表取締役社長 安福さん 右側:リサーチチームメンバー
酒造りにとって不可欠な米と水に多大な影響を及ぼす地球温暖化は明らかなリスクです。
農業生産者から流通、消費者に至るまで酒造メーカーが協力し、いかに自然を守り、美味しいお酒を持続的に造るかが喫緊の課題となっている中、酒造メーカーとして真っ先にこの課題に取り組まれた(株)神戸酒心館様に取り組み内容やそのヒントについてお話を伺いました。
【技術革新により既成概念を打ち破る】
SDGsへの取り組みについて農家の理解を得るのは難しく、苦労もありました。農家では、高齢化が進み、DXなどの新しい技術を入れることで効率的な農業をめざす必要がありますが、農家は一般的に保守的であり、旧来の慣れた栽培方法を好み、新しい技術を導入することに抵抗感があります。新技術導入の結果、農作業の効率化やお米の品質が向上するなど、具体的な効果が理解されることが必要です。例えば、ドローンを活用して生育状況のモニタリングを行うスマート農業や下水から回収した再生リンの利用について、最初は導入に躊躇した農家の代表が効果を実感し、現在ではそれらの推進役となっています。
また防災の取り組みもあります。水田を保全し、水田の保水力を利用し、水害を緩和するなど、地域の生態系や環境を保護しながら災害リスクの低減を狙うEco-DRR(Ecosystem-based Disaster Risk Reduction)という取り組みが行われています。この取り組みは、教育や観光などの点でも地域に利益をもたらします。
さらに新しい技術が受け入れられにくいのは伝統的産業である酒蔵メーカーも同じです。杜氏は慣習として自らの経験や技術を他の人に教えることはしないので、技術は見て学ぶしかありませんでした。杜氏から従業員が技術を見て学ぶのは難しいため、ICTを活用し、データ化を行い、酒造りを試みました。当初は、当時の社長や専務から品質や味の維持などの点で心配や反対がありましたが、今では、様々な受賞をするなど品質を維持でき、ICTを活用した酒造りも理解されるようになりました。
【異業種の仲間が協働で取り組む課題解決】
神戸山田錦推進研究会は、もともと酒米の山田錦の品質向上から出発しましたが、生産者の高齢化、後継者問題、自然保護、温暖化などの問題の重要性から危機感をもつJA兵庫六甲と神戸北山田錦部会、神戸市、コニカミノルタ(株)、(株)神戸酒心館が協働し、オープンイノベーションで激変する環境下でも山田錦の品質向上に対応するべく取り組みを進めています。
またフードシステムの川上から川下まで、一貫した取り組みも目指していますが、川上に比べ、川下(スーパーや小売)はこれからという段階です。食品産業は、他の業界に比べて、まだまだ理解が進んでいる会社は少なく、大手企業からアプローチすることも重要と考えています。最近ではセブンイレブン近畿と連携して脱炭素に取り組もうとしています。
他の酒蔵メーカーとの横の連携についても、まだ始まったばかりです。「地エネの酒 環(めぐる)」プロジェクトは神戸新聞社の主導で進められており、大関株式会社を含む6銘柄が連携しています。パートナー探しは本業に近い分野から行っていますが、今後はオープンイノベーションのアプローチを通じて、産官学民の多様なアクターと連携して取り組んでいきたいと考えています。
左:ICT農業など100%持続可能な製法で造ったという「環和」
右:世界初、カーボンゼロの日本酒「福寿 純米酒 エコゼロ」
【世代を越えた理解の醸成・訴求力向上への挑戦】
日本酒の消費量が下がる傾向の中、海外に活路を見出さないといけません。
ワイン産地であるボルドーや南アフリカなどはサステナブル認証などを取得し、北欧ではカーボンフットプリントが評価されるなど、消費者からSDGsなどの点で評価されています。日本ではブランドの保護の意味合いで地理的表示(GI)保護制度がありますが、欧米のように認証の価値について理解は進んでいません。
例えば、瓶1000リットルと紙パック1000リットルでは環境への負荷が大きく異なるにもかかわらず、灘五郷酒造組合による統一ブランド商品「灘の生一本」では軽量瓶を採用したものの、市民への訴求力はあまりありません。消費者はSDGsの重要性を理解している一方で、行動が伴わないというギャップを感じています。
お酒の消費は、シニア層が中心なので、日本酒の消費量が下がる傾向の中、20歳以上の新たなファン層を作る必要があります。お酒をより理解いただくため、酒造りと文化、環境を守る重要性について親子で学ぶような機会をつくることにも取り組んでいます。
これらの取り組みは一社だけでは難しく、様々なパートナーシップが重要と考え、今後もオープンイノベーションの機会を通じて仲間づくりをしていく予定です。
神戸酒心館「東明蔵」のショップではSDGsに関する取り組みを紹介
関連リンク:https://www.shushinkan.co.jp/csr/
※協力:共育分科会