左から谷さん、大橋さん
ローカルSDGs・脱炭素分科会を主催する環境省近畿地方環境事務所は、省として地域循環共生圏の構築とそのためのプラットフォームを作り出す事業に取り組んでいます。この地域循環共生圏づくりプラットフォーム構築事業に応募して、八尾市の地域循環共生圏の基盤を作るための活動拠点となっているのが、廃校を活用した八尾廃校SATODUKURI BASEです。
八尾では「キンタイ」と呼ばれ、地元で親しまれてきたコイ科の淡水魚である「ニッポンバラタナゴ」。高安山の麓のため池に生息しているこのキンタイを保全するために、NPO法人ニッポンバラタナゴ高安研究会によって長年活動が続けられてきました。キンタイを保全するためには、ため池を守る活動だけではなく、水源地である森林の整備や地域で無農薬栽培を推進して、小さな生き物を守る取組など、地域が一体となって幅広く活動を進める必要があります。そういったビジョン、取組を色んな人たちに伝えるために、高安小中学校区まちづくり協議会が中心となり、地域の多様な主体が連携し廃校の活用が進んでいます。
今回は、八尾廃校SATODUKURI BASE内でキンタイを中心に身近な生き物を展示する「きんたい廃校博物館(きんぱく)」の館長である大橋さんと高安山の間伐材を活用する「木育教室」を運営する谷さんに、地域との共生や共創、専門の異なる仲間と協働事業を進めていく上で大切にしていることについてお伺いしました。
都市部に近い里山だから「自分たちでやりたいこと」ができる
―SDGsについての取り組みを教えてください。
(谷)
正直に言うと、SDGs達成のためというより、自分たちのやりたいことをやることがSDGs達成につながり、地域も良くなっていくという思いでやっています。
(大橋)
これまでやってきたこととSDGsが、偶然一致していたという感覚です。「キンタイ」に関わる活動は陸の豊かさだけでなく、海の豊かさにもつながります。そういうことを楽しみながら取り組む方が増え、継続してきたいです。
―今までやってきたことが、世界に発信できることだっとということでしょうか?
(大橋)
そういうつもりではありませんでしたが、偉そうに言うと、20年以上前からやってきたことが、気づくと世の中の流れに合致していました(笑)
― 専門の異なる仲間と協業することで生まれるものはありましたか?
(谷)
自分は木が専門ですが、その先の川、海、山に影響が循環するという話は専門外でした。ですが、こちらの専門分野の要素を引き継いで話をしていただき、それがありがたかったです。
(大橋)
お互いが専門外を託し合っている感じもありました(笑)
(谷)
活動の幅がどんどん広がっているので、今後も様々な方に関わってほしいです。専門分野が無くても、街に貢献したい、何かしたいという意欲がすごく大事だと思っています。
(大橋)
すでに今、多くの学生と一緒に活動しています。また、今は地元よりも都市部からの参加者が多いので、もっと地元の人々の生活に根差した活動・施設にしていきたいと考えています。そして、「守らないと」という意識ではなく、楽しむ中で生き物を守る仕組みができればと考えています。
ビジョンの共有と確認は非常に大切
―今後取り組みたいことはありますか?
(大橋)
「地域循環共生圏」を考えたとき、どこに向かっていくのかが分からないと目標を立てられないので、外部の研究者の方にもぜひ協力してもらいたいです。また、この施設はフィールドの中にあるので、フィールドに出て、ツアーガイド的に説明してくれるような方にもぜひ参加してほしいです。参加する企業のメリットを作り、お互いWin-Winな関係性を築きたいとも考えています。
(谷)
企業協賛は少しずつ増えています。最近では、電鉄会社が地域の自然・文化を発信するために地元で走る電車をラッピングしてくださったり、一緒にイベントを開催したりしています。また八尾市は中小企業が多い地域でもあり、そういった地域の企業からの協力も増えて来ています。しかし、人員不足により企業との調整や働きかけが十分できていないので、今後はそこに尽力したいです。
―地域循環共生圏つまりコミュニティの範囲は八尾市内を想定されていますか?
(大橋)
八尾市に限定するつもりはありません。都会から近い里山なので、大阪市内の方は今もよくきてくださいます。ただ、八尾市の人にもぜひ参加してほしいですね。市内の企業の方も住民の方も、生活の1つに組み込まれてほしいので、どちらでも構わず参加してほしいです。
―共創において大切なのはどんなことでしょうか?
(谷)
ビジョンの共有がとても大切です。「何のための活動なのか」を常々共有する必要があると思います。各々がやりたいことだけをやっていると、少しずつズレがでてきてしまう。地域から「勝手にやっている」と思われてしまうと、活動自体が立ち行かなくなります。地域の方々にビジョンを共有するためにも、ここに足を運んでもらうことが重要だと思っています。今、少しずつではありますが、この活動に対する共感や理解が広がっているなと感じています。
―この活動のゴールイメージはどんなものでしょうか?
(大橋)
今は少ないスタッフで、様々なことをやらないといけませんが、将来的には一般の参加者、住民の皆様などと一緒に運営ができて、自分たちはコアになるマネジメントに注力できて、みなさんと活動し、この地域を守れるようになっていけたらと思っています。
(谷)
やらないといけないということももちろんあるが、生活や楽しみの一部になって、結果として地域・環境が守られていくのが理想です。地域でいうと人が減っていく中で、このライフスタイルを良いと思って、八尾市に来てくれる人が増えるのが1つの成功と思っています。
※協力:ローカルSDGs・脱炭素分科会